松江家庭裁判所 昭和41年(少ハ)1号 決定 1966年3月04日
少年 S・K(昭二〇・二・二一生)
主文
少年を昭和四一年二月二一日から昭和四二年二月二〇日まで京都医療少年院に継続して収容することができる。
理由
(本件申請の趣旨、理由の概要)
本少年は松江家庭裁判所の送致決定により昭和三八年七月二五日京都医療少年院に入院、昭和四〇年二月二〇日をもつて満二〇歳を超え、同月二四日同裁判所裁判官山口和男より「昭和四一年二月二〇日まで当院に継続して収容する」旨の決定を受け、同院に収容を継続してきたものであるが次の<1>ないし<4>の理由により、再度収容継続の申請をする(猶審判の席上、同少年院長石田博明は収容継続すべき期間は一年が相当である旨申請)。
<1> 少年は重症痴愚級の精神薄弱で一般社会での自立生活は到底困難である。
<2> 少年の保護者は知能低格者で極貧、保護能力に欠ける。
<3> 現在のところ、他に適当な保護施設もない(鳥取県“鹿野かちみ園”に収容依頼中)。
<4> 少年については引続き収容を継続する以外により適切な方法がない。
(当裁判所の判断)
本件記録によると少年は松江家庭裁判所により、昭和三八年七月一七日医療少年院送致の決定を受け、京都医療少年院に収容され次いで昭和四〇年二月二四日同裁判所により昭和四一年二月二〇日まで同少年院に継続して収容する旨の決定を受けたものであるが、再び上記理由にもとづき、引きつづき一年間同少年院への収容継続申請に及んだものであることが窺われる。
よつて審理するに家庭裁判所調査官の調査結果、京都医療少年院院長石田博明、同少年院分類保護課長中西晴雪の意見並びに本件資料を綜合すると、少年は知能低いため(重症痴愚級精神薄弱者)、一般社会での自立生活は到底困難で、精神的、経済的に十分な保護能力を有する保護者のもとで保護するか、又は適当な保護施設に収容して保護するのでなければ社会生活に適応できず、すぐに失敗し、再び犯罪に至る危険性が極めて大きいことが窺われる。しかるに保護者(実父S・I)も知能程度低く病弱であるうえ、生活保護法による扶助によつて辛うじて生計を維持している状態で、保護、監督能力は皆無にひとしいことが窺われる。これらの点よりみて、少年については適当な保護施設に収容して保護する以外に方法がないことが認められるのである。このことは既に前回収容継続決定の際にも指摘されており、少年を適当な施設に収容させるための手続期間等を考慮して収容継続の期間を一年と定められたことを認めることができる。そこでその間において京都医療少年院長により少年を帰住させるべき収容施設発見のため、どのような措置がなされたかをみると、次のとおりであることが窺われる。
即ち
1 昭和四〇年八月二一日島根県益田市福祉事務所長宛に精神薄弱者更生施設への入所方配慮を依頼。
2 同年九月二〇日同福祉事務所長より前記依頼に対する回答書受理(回答書概要:島根県内に成人精薄施設なし、鳥取県倉吉市に“希望の家”、広島県に県立援護施設がある。島根県出雲市神西町“さざなみ学園”に近々成人精薄者施設を併設の予定がある)。
3 同月同日松江保護観察所長宛環境調査調整依頼(概要:上記“希望の家”及び広島県立援護施設への入所に関する調査調整の依頼)。
4 同年一〇月四日同観察所長より前記依頼に対する回答書受理(概要:“希望の家”、広島県立援護施設はいずれも他県にあり、諸般の事情より少年院より直接施設所在地の保護観察所宛依頼されるのが適当である)。
5 同月七日鳥取保護観察所長宛調査調整方依頼(概要:貴県下所在の精薄施設への収容方調査調整依頼)。
6 同年一一月一五日同保護観察所長より上記依頼に対する回答書受理(概要:“希望の家”に収容余力なし、昭和四一年早々鳥取県立精薄施設開設の予定で、その取扱細則も決められる予定である)。
7 昭和四一年一月八日同保護観察所長宛調査調整方依頼(概要:前回答による新開設予定施設への収容方調整並びに取扱細則の送付方依頼)。
8 同月三一日同保護観察所長より前記依頼に対する回答書受理(概要:“希望の家”には定員余剰なし、“鹿野かちみ園”は県内の対象者収容を考えて設けられたもので、県費支出にからむ困難な問題がある。しかし益田市福祉事務所を通じて鳥取県に依頼されるのが順路である)。
9 同年二月二日前記益田市福祉事務所長宛依頼。(概要:鳥取県立“鹿野かちみ園”への収容方依頼)。
以上の経過の後、これが回答を受理しないうちに少年の継続収容期間が切迫したため同月八日当裁判所に対し本件申請に及んだものである。しかして当裁判所に対する前記益田福祉事務所社会福祉主事寺戸森太の回答書によると、少年の収容につき、上記“鹿野かちみ園”その他数カ所の精薄者収容施設に照会、交渉中であるが、未だ同施設等への入所の見通しがたたず、これが解決に至るまでには猶相当の日数を要することが窺われる。しかして上記収容継続決定以来一年を経過したが少年の帰住すべき適当な収容施設を発見するに至らなかつたとはいえ、京都医療少年院長のなした以上のような措置には何ら責められるべき点はなく(保護観察所相互間の連携に猶考慮すべきものがあることは認められるが)、これはひとえに我国における福祉行政の貧困欠陥(精薄者収容施設の増設等に関する)に由来するものというべきである。
少年の上記のような精神状態、保護者の保護能力、これまでの施設入所のための交渉経過その他諸般の情状を考慮すると猶今後一年間同少年院に継続して収容しうることとし、その間に適当な施設への入所方の実現に努めるのが相当であると認める。よつて少年院法第一一条第四項、少年審判規則第五五条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 畠山勝美)